コラム

遊びに潜む民俗③

ライター:草場 純

 日本(とは限りませんが)の民俗の中には、いろいろなところに「形式化された問答」というのがあります。

 昔話の中では山姥とお札が問答をしますし、犬・猿・雉も黍団子による利益誘導もさることながら、桃太郎との問答によってお供となっていくと考えるべきでしょう。ヤマトタケルに至っては、ことあげによって命を落とします。そう言えば「人狼」は、問答によって命を落とすゲームとも言えますね。

 伝承遊びに注目すれば民俗的な問答は更に顕著で、今まで紹介した「今年の牡丹」でも、「あぶくたった」でも、オニとコドモの問答は、遊びの主要な部分を占めています。よく知られる「花一匁(はないちもんめ)」も「問い」と「答え」の繰り返しによる、文字通りの問答が遊びの本体ですし、民俗の透けて見える部分でもあります。

問 ♪ふるさとまとめて花一匁

答 ♪ふるさとまとめて花一匁

問 ♪となりのおばさんちょっと来ておくれ

答 ♪鬼がこわくて行かれない

問 ♪おふとんかぶってちょっと来ておくれ

答 ♪おふとん破れて行かれない

問 ♪お釜かぶってちょっと来ておくれ

答 ♪お釜底抜け行かれない

問 ♪鉄砲かついでちょっと来ておくれ

答 ♪鉄砲弾なし行かれない

問 ♪それはよかよか どの子が欲しい

答 ♪あの子が欲しい

問 ♪あのこじゃ分からん

答 ♪この子が欲しい

問 ♪このこじゃ分からん

答 ♪相談しよう

問 ♪そうしよう

 それぞれに隠喩されているものの詮索は民俗学に譲り、ここでは遊びからゲームに発展した「問答」を見てみましょう。

 「なぞなぞ」などの言葉遊びは、ゲームと言うよりはクイズですが、明治から大正期に流行った字花(チーハー)は、それなりに高いゲーム性をもっています。これは親があらかじめ定められた漢熟語の中の1つを正答と指定し、曖昧なヒントを出して回答を募るギャンブルゲームです。こうした「親の決めた正答を子が察して当てる」というゲームシステムは、手本引きなどにも見られるものです。と言っても、もちろん日本の専売と言うわけではありません。現代では、たほいや(ディクショナリー)や、アップルトゥアップルなどとして多用されています。絵が絡めば、ディクシットやカレイドス、アイデンティクやテレステレーションなどもこの類といえるでしょう。

 とは言うものの、例えば「ディクシット」と「手本引き」を比較したとき、その文化的な背景の大きな違いに、深い感慨を覚えずにはいられません。これを両者の民俗の違いに結びつけるのも、あながち強引とは言えないと思うのです。

初出:ゆうもりすと2011年2号


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