コラム

遊びに潜む民俗⑥

ライター:草場 純

 ♪か〜らすかずのこ にしんのこ おしりをねらって かっぱのこ

 これも古い童遊びです。この遊びの面白さはだんだんオニが増えていくところにあります。エスカレートしていってカタストロフィーに向かう状況は、ちょっとギャンブルゲームのスリルに似ています。

 初めはオニは一人です。コドモたちは内向きに、肩が触れ合うくらいの密集した一重円を作ります。オニは
 ♪烏、数の子、鰊の子。お尻を狙って河童の子。
と、歌いながら周囲を巡り、最後の「カッパノコ」のところで、ちょうど目の前になった子のお尻をポンポンポンと軽く3回叩きます。するとその子もオニになるのです。1人抜けてちょっぴり小さくなった円の周りを、新しいオニは今までのオニの前に立ち、二人縦に並んで「♪か〜らすかずのこ…」と歌いながら円陣を回り、「♪カッパノコ」で目の前のコドモのお尻を叩きます。するとオニが三人になりますね。新しいオニは直前のオニのそのまた前に立って先頭となり、歌いながら円陣の周りを巡るのです。このようにしてだんだんオニは増え、反比例してコドモは減って円陣は小さくなります。

 このだんだん仲間が減っていく心細さは、鬼遊びに不可欠なオニとの心理的距離を作り出して秀逸です。しかも最後の一人になったコドモは、鬼と化した残りの全員に「カッパノコ」のところでお尻を叩かれるのです!

 こんな簡単な原理で収束に向かって緊張が高まるシステムは、現代のゲームデザイナーにも学んでほしいくらいですが、実はこの遊びも時代の趨勢でこのままでは遊べなくなってきてしまいました。私が小学校の授業でこの遊びをとりあげたとき、伝統に反するのは承知の上で、
 ♪か〜らすかずのこ にしんのこ せなかをねらって かっぱのこ
と改めました。「民俗」が、社会の文脈の中で組み替えられていくものだとしたら、こうした変化も新しい民俗と言うべきなのかもしれません。

 とは言え私は「なまはげで脅された子が心的外傷を負ったので訴えられる」などと言うような、どっちがモンスターかわからないような状況がやってこないことを、切に望むものではあります。

初出:ゆうもりすと2012年2号


ページのトップへ戻る